皆さんは「商品化権」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「商品化権」はライセンスビジネスを支える土台として、現在なくてはならない概念です。
さまざまなキャラクターをグッズ化したり、タレントがCMに出演したり、時にはキャラクター同士がコラボする。これらすべて「商品化権」が関わるケースです。
ただ、実は日本には「商品化(権)法」という法律はありません。
著作権は著作権法、特許権は特許法というように、多くの「〇〇権」にはそれぞれ対応する法律が存在しています。一方で、「商品化権」は対応する1つの法律があるわけではなく、複数の法律を組み合わせることで、権利を守っているのですが、その分複雑に感じられがちです。
そこで本記事では、「商品化権」の定義や、「商品化権」を支えるいくつかの法律、また、「商品化権」が侵害されたときにどのようなペナルティがあるのか、初心者の方にも分かりやすく解説します。
1. 商品化権とは?まず定義を押さえよう
「商品化権」とは一体何か。いろいろな説がありますが、ここでは一般的なものとして
漫画やアニメーション・映画などの作品、作品に登場するキャラクター、実在する人物などを、
商品・広告などに利用するための経済的権利
と定義します。
もともと英語には“Merchandising Rights”という言葉があり、キャラクターをグッズとして商品化する場面で契約が結ばれていました。
例えば、1928年に『蒸気船ウィリー』でデビューしたミッキーマウスは、早くも1930年にはミッキーのイラストを表紙にあしらった「学校用のメモ帳」が最初の公式ライセンス商品として誕生したそうです。
(ジェシカ・ワード著『アートで見るウォルト・ディズニーとミッキーマウス」 27Pより)
この“Merchandising Rights”、いかにして日本の「商品化権」になったのでしょうか。
1963年にTV放送されたアニメ番組「エイトマン」が米国のTV局に買われた際、米国からTBSに送られてきた契約書に“Merchandising Rights”という単語が含まれていたそうです。
この時点では単に「マーチャンダイジング権」と直訳していたそうですが、別のアニメ番組「スーパージェッター」のキャラクター人形を発売したいと国内玩具メーカーから申し出があった際、より日本的な言葉として『商品化権』という言葉が充てられたのが、語源とされています。
(牛木理一著『キャラクター戦略と商品化権』11Pより)
つまり、日本における商品化権の最初の場面は、
アニメ作品に登場するキャラクターを、玩具などのグッズに利用するための権利
でした。
初期の利用は、登場したキャラクターのイラストをそのままグッズに転写したり、立体化したりするというシンプルなものでした。しかし、メディアの進化に伴い、「キャラクターを広告に利用する」、「キャラクターを別の作品に登場させる」、「作品の世界観を反映させたテーマパークを作る」というさまざまな利用が見られるようになります。
また、漫画・アニメーションに登場する「架空のキャラクター」だけでなく、俳優・歌手・アイドルといった著名人のグッズの制作や、広告利用という活動も広く行われるようになりました。
これらの「利用」ですが、ほとんどの場合、無償ではありません。「利用」を許諾する代わりに、金銭をはじめとするなんらかの対価が設定されることが通常です。そこで、
- 「利用」を許諾するための根拠となる権利があるか。その人に権利がなければ、対価を支払ってわざわざ「許諾」してもらう必要がなくなってしまう。
- 第三者が無断で「利用」してきたときに、それを停止させたり、対価を支払わせたりするための根拠となる権利があるか。
という2点を、契約の時点で明確にする必要が生じます。
このように、さまざまなライセンス契約を支える便利な概念として、「商品化権」という言葉が広く使われるようになったのです。
2. 商品化権を支える知的財産権
ただ、先ほど冒頭で「日本には商品化権法という法律はない」と紹介しました。
キャラクターなどを利用するライセンス契約を結ぶためには「根拠」となる権利が必要です。しかし、商品化権法という1つのまとまった法律はありません。 では、「商品化権」という権利はいったい何を根拠としているのでしょうか?
答えは、複数の法律の権利が組み合わさることで、商品化権という『権利の塊』が成立しています。「商品化権」が最初とっつきにくい理由なのですが、商品化権を支える代表的な法律をみていきましょう。
1. 著作権法
法目的
著作物に関わるさまざまな権利を定めることで、文化的所産の公正な利用と、著作権者等の権利保護のバランスを図り、文化の発展に寄与する。
保護される対象
著作権法で保護される著作物は、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」と定義されています。
具体的には、小説、脚本、論文、講演、音楽、舞踊または無言劇、絵画、版画、彫刻、建築、地図または学術的な図面、図表、模型、写真、映画、プログラムなどといった、多様な表現形態が著作物として認められています。
著作物の例
言語(小説・脚本)
音楽(曲・歌詞)
美術(イラスト・フィギュア・漫画など)
映画(アニメ・実写など)
プログラム(ゲームソフトなど)
写真
著作物では無いものの例
単なるデータ/事実
アイデアそのもの
他人の作品の単なる模倣
短すぎる・ありふれた表現
商品化権との関係で大切なポイント
- 著作権は「無方式主義」といって、原則として創作時点で自動的に権利が発生し、保護されます。
- 著作権者は複製権、公衆送信権、変形権、翻訳権といった様々な権利を有し、例えばキャラクター画像を無断でTシャツにプリントするような行為は著作権侵害、インターネットにアップロードする行為は公衆送信権侵害となります。
- 著作権を利用許諾(ライセンス)により著作権者以外に利用してもらうことが可能です。また、著作権を譲渡することもできますが、著作者人格権は譲渡ができませんので契約時に注意が必要です。
- 参考リンク:著作権とはどんな権利?|学ぼう著作権|KIDS CRIC
2. 商標法
法目的
商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する。
保護される対象
商標とは、事業者が自己の取り扱う商品・サービスを他人のものと区別するために使用するマーク・ネーミング(識別標識)です。
商品化権との関係では、アニメ作品のタイトルロゴや、キャラクターの名称・図柄を商標登録することが多くみられます。
商標登録の例
第1625340号
株式会社小学館集英社プロダクション
第4786734号
東映アニメーション株式会社
第4650471号
東映アニメーション株式会社
第4564165号
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
第4046272号
東映株式会社
第4070675号
株式会社バンダイ
商品化権との関係で大切なポイント
- 商標権は特許庁に出願をして、商標登録が認められる必要があります。同一又は類似の商標の出願があったとき、先に出願した者に登録が認められる「先願主義(早い者勝ち)」の制度になっているため、早期の出願が重要です。
- 出願の際には、その商標を使用しようとする商品・サービスの区分を指定する必要があります。この区分は1~45類まであり、各区分の中にさらに「指定商品(例:玩具、被服、キーチェーンなど)」が細かく含まれています。
- 指定した商品・サービスと同一・類似の範囲でしか、商標権の効果は及ばないため、例えば「28類 玩具」のみを指定して商標登録していても、第三者が「25類被服」のグッズにその登録商標を使用することを止められません。そのため、指定商品の選定は商品化の可能性にあわせて慎重に行う必要があります。
- 商標権の存続期間は10年ですが、必要によって何度でも更新することができます。著作権は著作者の死後70年(法人作品は公開後、70年)の存続期間があるため、長期にわたって利用される作品は、商標権による保護が大切です。
- 参考リンク:商標制度の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
3. 不正競争防止法
法目的
事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与する。
商品化権と関わる主な不正競争行為
不正競争防止法には、不正競争行為が10類型定められていますが、商品化権との関係で理解しておきたい「不正競争行為」は以下の3つです。
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周知な商品等表示の混同惹起(2条1項1号)
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商品等表示とは「業務に係る氏名、商号、商標、標章や商品の容器・包装その他の商品または営業を表示するもの」とされ、幅広い概念です。例えば、作品のタイトルロゴ、キャラクターの名称、キャラクターの図柄も商品等表示となり得ます。
ただ、本類型では「周知性」要件があり、商品等表示が「需要者の間に広く認識されている」こと、すなわち少なくとも一地方において、商品などの取引者に広く知られている必要があります。
また、「混同惹起」要件があり、少なくとも「(商品等表示の第三者による冒用により)他人の商品・営業と混同が生じるおそれ」が必要とされています。
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著名な商品等表示の冒用(2条1項2号)
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本類型はⅰと同じく、「第三者による商品等表示の無断使用」を規制しています。
ⅰとの違いとして、「混同惹起」要件が不要である一方、保護される「商品等表示」は周知なだけでは足りず、「著名」性も求められます。「著名」とは、全国的に知られている必要があり、さらに特定者を表す表示として、取引者だけでなく世間一般に知られている必要もあります。
著名性はかなりハードルが高い要件ですが、「ルイ・ヴィトンの図柄」(知財高判平30.3.26)、「マリオのキャラクターイラスト」(知財高判令2.1.29)について、著名な商品等表示として認められた裁判例があります。
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商品形態を模倣した商品の提供(2条1項3号)
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本類型では、「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為」が規制されています。
ここでいう「模倣」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」とされており、独自に創作した場合は該当しません。また、実質的に同一という要件もあるため、基本的にデッドコピーである必要があります。
・ ただ、改変の程度によっては「実質的に同一の範囲に留まる」と評価されます。たとえ著作権や意匠権による保護が与えられないケースでも、苦労して作り出した商品形態であるから先行投資の回収の観点より、「一定期間」は保護しようという規定のため、禁止できるのは「日本国内で最初に販売された日から3年」という制限があります。
なお、「ありふれた形態」や、「商品の機能を確保するために不可欠な形態」については、デッドコピーであっても保護の対象にはなりませんので、注意が必要です。
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商品化権との関係で大切なポイント
- 著作権・商標権という明確な「権利」に対し、不正競争防止法は不正競争行為から事業者を守る「防御手段」という要素が強いため、ライセンス契約の実務では、まず著作権・商標権の存在を明確にし、契約の根拠とすることが大切です。
- 参考リンク:不正競争防止法の概要 (METI/経済産業省)
上記以外の商品化権と関わる法制度として、物品のデザインを登録により保護する「意匠法」、さらに法律ではないですが判例上認められた「パブリシティ権」という概念もあります。
このパブリシティ権は、「有名人・著名人が、自らの氏名や肖像(容姿)が有する顧客吸引力を、独占的に利用する権利」と理解されています。この独占権に基づき、第三者に利用を許諾することもできます。
有名人をCMやポスターなどに起用する際には、その有名人がもつ「顧客吸引力」に期待して依頼することが通常ですから、その商業的価値を保護しようという考えです。本記事では詳しく取り扱いませんが、「パブリシティ権概説」などが専門書として参考になります。
3. 商品化権が侵害されたらどうなるのか?
ここまで商品化権を支える法律を見てきましたが、これらの権利が侵害された場合、民事上の差止請求・損害賠償請求が可能です。
さらに、著作権法・商標法・不正競争防止法では刑事罰も規定されており、日本国内で逮捕者も出ています。本章ではキャラクターの権利侵害に関する事件をいくつか紹介します。
商品化権事件簿(1)(著作権侵害事件)
事件名:アフィリエイト広告収入を目的とする違法ゲームアプリ配信に係る著作権法違反事件
概要:
佐賀県警察サイバー犯罪対策課、佐賀南警察署は、「仮面ライダーエグゼイド」、「それいけ!アンパンマン」、「ドラゴンボール」など人気アニメ等のキャラクター画像を権利者の許諾なく使用してスマートフォン用のゲームアプリを作成し、アプリケーションダウンロードサービスにて配信した神奈川県在住の被疑者2名を著作権法違反で2020年9月30日に逮捕しました。
またこの事件を受けて、佐賀地方裁判所は2021年6月9日、被疑者2名に対し、懲役2年6ヶ月、執行猶予4年、罰金100万円の有罪判決を言い渡し、同月24日に確定しました。被疑者らは、アプリ内に掲載したアフィリエイト広告により収入を得ており、その収益は数千万円にものぼり、アフィリエイト広告収入の一部が犯罪収益としても没収されました。
商品化権事件簿(2)(著作権侵害事件)
事件名:無許諾でのキャラクター商品の製造・販売による著作権法違反事件
概要:
権利者の許諾を得ることなく、「ラブライブ!」などのキャラクターイラストを使用した運転免許証を模したカード商品を製造、販売していた者が、2021年2月5日に、茨城県つくば警察署、茨城県警生活安全課、サイバー犯罪対策課により逮捕され、水戸地検土浦支部に送致されました。
当該侵害者には、2021年6月3日、水戸地方裁判所により、懲役8月、罰金50万円の有罪判決が言い渡されました。
無許諾のキャラクター商品
商品化権事件簿(3)(不正競争防止法違反事件)
事件名:たまごっち VS ニュータマゴウォッチ民事訴訟
概要:
1997年、(株)バンダイが製造・販売する液晶ゲーム玩具「たまごっち」が人気を博した際に「ニュータマゴウォッチ」という商品名で液晶ゲーム玩具(以下、イ号商品)を輸入・販売する業者が現れ、(株)バンダイは不正競争行為として輸入・譲渡等の禁止、在庫の廃棄及び損害賠償を求める民事訴訟を提起しました。
裁判所は、被告のイ号商品がバンダイ「たまごっち」の形態を模倣した商品と認められること、バンダイ「たまごっち」は日本の取引者・需要者にとって周知であり、かつイ号商品と商品名・形状が類似しているため需要者が商品を混同する恐れがあることを理由とし、被告にイ号商品の輸入・譲渡等の禁止、在庫の破棄及び約2000万円の損害賠償を認めました(判決はその後確定しています)。
なお、本民事事件では合わせて意匠権侵害も認められています。
初代「たまごっち」
発売:1996年 真正品
©BANDAI
「たまごっち」模倣品
(被告のイ号商品)
参考リンク:
東京地裁平成9年(ワ) 第8416号 不正競争行為差止等請求事件
http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/doc/juris/tdcj-h10-2-25.htm
4. もっと商品化権を詳しく知るために
ここまで商品化権の定義や、それを支える法律の規定、また権利を侵害したときの罰則についてみてきました。この章では「商品化権」をもっと詳しく理解したい方のために、いくつかの参考書籍を紹介します。
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コンテンツ商品化の法律と実務[ライセンス契約完全ガイド]穂積 保著 (2009年 学陽書房)
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コンテンツ商品化ビジネスに必要な著作権・商標などの法律知識を初心者向けにやさしく解説するほか、契約の基礎知識や商品化契約書のサンプルも掲載。まず、商品化権について概観したい方が初めて読むのにおすすめです。
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キャラクター戦略と商品化権牛木 理一著(2000年 発明協会)
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日本における「商品化権」の発展や、各法による保護の状況を豊富な判例をもとに紹介。また、各法律によって与えられる保護とその限界について細かく論じられています。2000年とやや古く、法改正には注意する必要がありますが、体系的に商品化権に対する知識を得られる書籍です。
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実務者のための著作権ハンドブック(新版)池村 聡、小坂 準記、澤田 将史著 (2022年 著作権情報センター)
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商品化権においてもっとも重要な法律は著作権法です。ただ、条文を読み下すのは容易ではありません。本書は法律のわかりやすい解説と、66問の一問一答、関係法令が全てまとまっており、著作権を理解する副読本として最適の一冊です。
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商標の法律相談<1><2> 小野 昌延、小松 陽一郎、三山 峻司 編 (2017年 青林書院)
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商品化権の世界において、商標法は著作権に次いで重要な地位を占める法律です。こちらも条文だけから全体像を理解するのは困難ですが、本書は114問の一問一答形式で、商標の基礎知識から応用問題まで網羅しています。中級者以上向きですが、商標の実務を行う上で備えておきたい一冊です。
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その他、おすすめの書籍やWEBサイトについて、今後も追加していきます。
商品化権が正しく理解され、また活用されることで、円滑にライセンスビジネスが発展していくことを我々日本商品化権協会は心より願い、今後も活動を続けてまいります。